すうがくなどについてのメモ

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テータ関数と熱伝導方程式

リーマンゼータ関数の第二の積分表示に用いられるテータ関数$\theta(t)$
\begin{align*}
\theta(t) =\sum_{n=-\infty}^{\infty} e^{-n^2 \pi t } \hspace{5mm}(t>0)
\end{align*}
は、熱伝導方程式と関係がある。これはよく知られた事実だと思うが、自分ではいままで物理的な側面を意識してこなかったので、ここでまとめる。

 まず、一次元の長さ$1$の金属棒の位置座標を$x \hspace{2mm}(-1/2 \leq x \leq 1/2)$とし、時刻を$t$としたとき、位置$x$、時刻$t$における温度$\theta(x,t)$は、熱伝導方程式
\begin{align*}
\frac{\partial^2 \theta}{\partial x^2} = 4\pi \frac{\partial \theta}{\partial t}
\end{align*}
を満たす。ただし、熱拡散率$1/4\pi$は都合の良いように設定している。この微分方程式は変数分離法で特殊解を求めることができ、その解は
\begin{align*}
\theta(x,t)= \sum_{n=-\infty}^{\infty} a_n e^{-n^2 \pi t }e^{2n \pi i x}
\end{align*}
と書くことができる。実際にこの右辺が熱伝導方程式を満たすことは簡単に確かめられる。ここで$t=0$における初期条件$\theta(x,0)$が与えられたとき、係数$a_n$は
\begin{align*}
a_n= \int_{0}^{1} \theta(x,0)e^{-2n\pi i x} dx
\end{align*}
で与えられるから、初期条件として$\theta(x,0)=\delta(x)$、つまり$x=0$で温度が無限大、それ以外で$0$とすると、上記から
\begin{align*}
a_n= 1
\end{align*}
となり、求める解は
\begin{align*}
\theta(x,t)= \sum_{n=-\infty}^{\infty} e^{-n^2 \pi t }e^{2n \pi i x}
\end{align*}
となる。これは楕円関数の本などで$\vartheta_3$とか書かれるものに対応する。ここで$x=0$とすれば
\begin{align*}
\theta(0,t)= \sum_{n=-\infty}^{\infty} e^{-n^2 \pi t }
\end{align*}
となり、これがリーマンゼータ関数の第二の積分表示の際に用いた関数$\theta(t)$である。

 つまり、$\theta(t)$は金属棒のある1点における温度の時間発展の様子を表していると見ることができる。
 このような見方はリーマンゼータ関数の解析的性質を導き出す際に特に有効なものではないかもしれないが、おそらく歴史的にはテータ関数はこういった物理的なところから現れてきたものであり、それがリーマンゼータ関数という極めて純粋数学的な数学的対象に結びついたことは、とても面白く感じる。