お前はすでに詰んでいる ~素数大富豪において素数が作れない手札の研究~
この記事は素数大富豪のアドベントカレンダー 7日目の記事です。
昨日は二世さんの「たかが山札、されど山札」でした。
素数大富豪を始めてから、これまで数え切れないほど素数大富豪で遊んでいるのですが、一向に強くなれないのがちょっとした悩みです。
ただ、なぜ強くなれないか、というと理由は単純で「素数を覚えられないから」、そして「計算をよく間違えるから」です。具体的には、3枚出しくらいから素数がなかなか覚えられません。また、いまだに3の倍数をしょっちゅう出してしまうくらい計算間違えも多いです。
その代わりといってはなんですが、勝負所で「素数っぽい数」を勘で出すことに関しては、けっこう成功率が高いと思っています(ただし、他人と比べたことはない)。
素数大富豪では上級者は素数かどうか分からない数を出すことはあまりないですが、素数かどうか分からない数を一か八か出して「素数と出会う」楽しさも素数大富豪の大きな魅力ですよね?
・・・でも待ってください。実はあなたが「素数かも」と勘で出そうとしているその手札、一見素数が作れる可能性がある気がするけど、実はどう組み合わせても素数が作れないかもしれないですよ?
例えば、3枚出しの場で自分の手札も残り3枚、その内訳が9, Q, Kだったとしましょう。正直に言って私にはこの組み合わせから素数が作れるか知りませんでした。なんとなく作れそうな感じもありますし、ここで素数が出せれば上がりなので、こういう場合たいてい私は素数っぽい数を作って一か八かを狙います。
ところが、9, Q, Kをどう並び替えても、素数は作れないのです。つまり、このうち明らかに素数でないことがわかるQを最後に持ってくる場合を除いた4パターン、つまりQK9, Q9K, KQ9, 9QK もいずれも素数ではありません!
実際、これらの数は次のような素因数分解を持ちます:
$$12139=61 \times 199$$
$$12913=37 \times 349$$
$$13129=19 \times 691$$
$$91213=53 \times1721$$
つまり、 9, Q, K と言う組み合わせは、素数が作れそうだけど実はどう頑張っても作れない手札なのです。でも、実戦の場でこの4つの数を全て素数でないと判断するのは困難だと思います。
そこで今回は、そんな「お前はすでに詰んでいる」状態を避けるために、「一見素数が作れそうだけど、実はどう並べても素数が作れない手札」、名付けて「詰んでるセット」を探してみました!!
ここで、今回の「詰んでるセット」の定義は以下の通りとしています。
①偶数および5のみからなる手札でない
②手札を足して3の倍数になっていない
③しかし、どう並び替えても素数を作れない
①、②のコンセプトは「比較的すぐに素数が作れないと判断できるケースは除外する」というものです。このへんは計算能力により人により違いがあると思いますが、個人的な感覚で決めました。また、これは良い条件ではないかもしれませんが今回は
④手札が全て異なる
と言う条件も定義に入れておきます。
途中の計算は省略しますが、pythonを用いて計算した結果、 3枚の「詰んでるセット」はこうなりました:
「詰んでるセット」(3枚)
(1, 3, 13), (1, 4, 8), (1, 4, 12), (1, 5, 8), (1, 7, 8), (2, 4, 7), (2, 4, 13), (2, 5, 9), (2, 5, 13), (2, 7, 10), (2, 8, 13), (3, 4, 10), (3, 4, 12), (3, 5, 12), (3, 10, 12), (3, 12, 13), (4, 5, 11), (4, 6, 9), (4, 6, 13), (4, 8, 11), (5, 6, 11), (5, 7, 13), (5, 10, 11), (5, 11, 13), (6, 7, 10), (6, 7, 12), (6, 8, 9), (6, 8, 11), (8, 10, 11), (8, 11, 12), (9, 12, 13)
確かに一見素数が作れそうにも思える組み合わせが多いですね!
ただ、組み合わせの個数も結構あり(数えたら31個でした)、正直なところ
これを覚えるんだったら最初から素数を覚えたほうが良いのでは?
という気持ちが若干芽生えました。 当初の予定では「詰んでるセット」はもっと少ないと思っていたのですが、意外と多かったのが誤算でした。
しかし、4枚の「詰んでるセット」を探してみると、個人的にはちょっと嬉しい結果になりました。
「詰んでるセット」(4枚)
(2, 4, 6, 13), (2, 5, 12, 13), (2, 7, 8, 12), (4, 5, 11, 12), (5, 8, 10, 11)
なんと、4枚の「詰んでるセット」は(私の計算が間違っていなければ)5組しかないのです! 手札4枚で「ぱっと見素数が作れるか分からない組み合わせ」は相当多そうですが、この結果から、上記の5組に該当しなければ、素数を出せる望みがある、ということが分かりました!
そもそも4枚出しは覚えるのが大変なので勘で出すことが多くなりますが、今回の結果は「手札をうまく並べればたいていの場合素数は作れる」ということを言っています。これは「素数と出会いたい」人にとっては朗報ではないでしょうか?
この調子で5枚はどうなっているかも計算したかったのですが、時間が足りずとりあえずここまでとさせていただきます。お読みいただきありがとうございます。
明日の記事は菅原響生くんの予定です。お楽しみに!!
今日の授業
今日は色々問題を考えたり解いたりしたが、生徒さんの気づきから発展して次のことがわかった:
「正の整数$n$に対して$2^n$の$10$進展開の先頭の数を$a_n$とする(つまり$a_n$は$1$から$9$の数)。この時$d=1,2,\cdots,9$に対して
$$ \lim_{N \to \infty}\frac{ \#\{n | n \leq N, a_n = d\}}{N} = \log_{10}(1 + 1/d) $$
となる(つまりベンフォードの法則が成り立つ例になっている)」
証明はWeylの一様分布定理を用いれば出てくるが、ベンフォードの法則の数学的に厳密な例は考えたことがなかったので、こちらも勉強になった。
$R^2$内の二つの図形を同じとみなす見方
$R^2$内の二つの図形を「同じ」とみなす見方は色々ある。例えば二つの三角形が「合同」なときにその三角形を「同じ」と思いたくなったりするが、これはその二つの三角形が平行移動と回転、鏡映という変換で互いに移り合う時に「同じ」とみなす、という見方を採用していると考えることができる。
また、二つの三角形が「相似」な時にその三角形を「同じ」と思うことは、平行移動と回転、鏡映に加えて拡大・縮小変換によって互いに移り合う時に「同じ」とみなす、という見方を採用していると考えることができる。
それぞれのケースで変換全体を考えることはそれぞれに対応する変換群を考えることに対応するが、変換群としてアフィン変換群をとってくると、平面上の全ての三角形は「同じ」とみなせる。こういった考え方がいわゆるエルランゲン・プログラムという19世紀の幾何学の重要な視点に関連する(ということを最近ようやく理解した)。
今日この話を生徒さんにしたら、「これ以外にもっとゆるい条件で同じとみなせるものはあるのかな?」と質問がきた(←鋭い)。ふとその場で「$R^2$から$R^2$への同相写像全体のなす群で移り合う図形を同じとみなす、という考え方がいわゆるトポロジーではないかな?」と答えたが、言いながら自分でも「ああ確かにそうだな」ととても理解が深まった。
今日の授業
今日の生徒さんとは先週に引き続きgeogebraを使って幾何で遊んだ。
三角形の内接円と辺との接点と、対となる頂点を結んでできる三本の直線は一点で交わる。これをジュルゴンヌ点というらしい。面白いのは一般の二次曲線でも同様の性質が成り立つことで、こういうものを確かめるのにgeogebraはとても便利で楽しい。生徒さんもとても楽しんでいるようだった。
実際、放物線のケースでgeogebraを使って描いてみると以下のようになる↓
なぜこの話をしたかといえば、これらの事実と射影平面を関連づけることができるためで、射影平面という多様体の基本的な例に親しんで欲しいという意図がある。今回は射影平面の具体的な話はできなかったが、これからそういう話をしていきたい。